燃えつきた地図
安部公房 著
失踪する人。彼らはどこに行くのだろう。
失踪者を追跡しているうちに、次々と手がかりを失い、大都会の砂漠の中で次第に自分を見失ってゆく興信所員。都会人の孤独と不安。
◇感想と解説
ある探偵が、ひとつの失踪事件に関わることにより、日常生活の迷宮にはまり込んでいくお話。
ありふれた団地の風景。その向こうにいつでも迷宮は潜んでいる。
話の内容的にサスペンスのような雰囲気が漂うが、これはサスペンスではない。なぜならばあべこべの世界だからだ。安部公房の世界に完結は訪れない。どんどん不思議な世界の奥深くへと連れて行かれてそして脱出不可能となる。安部公房はループする言葉を使ってそれを表現している。
前にも通ったところをぐるぐるまわって迷子になって感じ。それが繰り返されるフレーズによって表現されているように思う。言葉によって作られた迷宮。
私たちは失踪人の足跡を追って探偵と一緒に裏の裏の世界へと足を踏み入れていく。表向きの姿とはまるで違った裏の顔を持つ人々。その謎が明かされていくとまた出現する新たな謎。謎が謎を呼んでいつまでたっても核心へたどり着けない。
失踪してしまった人はいったいどこへ行くのだろう。
もしかしたら、こうしてどこかのカーブをテクテクと歩いているかもしれない。
『燃えつきた地図』 は勅使河原宏監督、勝新太郎、市原悦子主演によって映画化している。
◇関連作品
安部公房 著
短編集。『カーブの向う』 は 『燃えつきた地図』 の元ネタのような物語。
突如記憶が中断してしまい、謎に満ちた世界を手探りで行動する男。現代人の孤独と不安を抉り出し、『燃えつきた地図』の原型となった『カーブの向う』。自分の糞を主食にし、極端に閉じた生態系を持つ奇妙な昆虫・ユープケッチャから始まる寓意に満ちた物語、『方舟さくら丸』の原型となった『ユープケッチャ』。ほかに『砂の女』の原型『チチンデラヤパナ』など、知的刺激に満ちた全9篇。
◇情報
1967.日本