砂の女
安部公房 著
たかが砂 されど砂砂はどこにでも入ってくる
砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。
考えつく限りの方法で脱出を試みる男。
家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。
そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める部落の人々。
ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のなかに、人間存在の象徴的な姿を追求した書き下ろし長編。20数ヶ国語に翻訳された名作。
◇感想と解説
読売文学賞とフランスで最優秀外国文学賞を受賞した安部公房の代表作。世界中で読まれている。
安部文学独特の、戦後日本の陰鬱な雰囲気が全面的に漂って、ぼやっとした視界。
安部公房の話には昆虫趣味がよく出てくるけど、この物語も主人公がめずらしい昆虫を砂丘に探しに来るところから始まる。
その昆虫大好きっぷりが、なんとなく手塚治虫のマンガの世界とリンクしてきて、読んでいると私にはアニメーション映像のようにこれらの場面が見えてくるのだ。
日常からやってきた主人公がひょんなことから不条理な世界へ入り込んで囚われてしまう設定は、彼の本で幾度も語られる共通のテーマであるが、『砂の女』 の閉塞感はダントツに息が詰まる。
かき出してもかき出しても入り込んでくる砂と、じめじめカビ臭い感じがもうたまらなく不快。
本作品は勅使河原宏監督、岡田英次、岸田今日子主演によって映像化されている。
◇関連作品
安部公房 著
短編集。収録の『チチンデラヤパナ』 は 『砂の女』 の元ネタのような物語。
突如記憶が中断してしまい、謎に満ちた世界を手探りで行動する男。現代人の孤独と不安を抉り出し、『燃えつきた地図』の原型となった『カーブの向う』。自分の糞を主食にし、極端に閉じた生態系を持つ奇妙な昆虫・ユープケッチャから始まる寓意に満ちた物語、『方舟さくら丸』の原型となった『ユープケッチャ』。ほかに『砂の女』の原型『チチンデラヤパナ』など、知的刺激に満ちた全9篇。
◇情報
1962.日本