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吉里吉里人

井上 ひさし 著

おらだぢは吉里吉里人なのす分離独立したんでがすと

「おらだぢは吉里吉里人(ちりちりずん)なのす」
「おらだぢはとうとう日本から分離独立したんでがすと」
東北のとある村「吉里吉里」が独立!?
偶然居合わせた売れない作家・古橋健二は吉里吉里国に留まり成り行きを見守ることに。徐々に明らかになってくる「吉里吉里国」。
それは金本位制・農業立国・医学立国・好色立国を目指し、なおかつ奇想天外な切り札を持った、最強の国家だったのだ!!(好色立国ってなんじゃ!??)

◇感想と解説

第2回日本SF大賞を受賞した、異色のSF大作。

それにしても、ものすごい話だ。

主人公の古橋という男はとってもモテない感じの五十男で、ピュアというか何というか、果てしなくアホな感じ。著者が「ひょっこりひょうたん島」の原作者もあると言ったら、なんとなくノリがわかってもらえるだろうか。

この男が、なんと東北のとある村が独立国家となる場面に居合わせてしまう。
彼らは自らを吉里吉里人と名乗り、吉里吉里語を話す。
吉里吉里語ってゆうのはつまり吉里吉里の方言。
東北弁のことだ。ちなみに、井上ひさしは山形出身である。

吉里吉里人 には ちりちりずん とふりがながあるが、きりきりじん と読む。

吉里吉里人による吉里吉里人のための独立物語。

『吉里吉里人』 はユートピア小説でもあり、現実の日本社会を皮肉った諷刺小説でもあり、シミュレーション喜劇ともとれる。
私は政治・経済にうといので、この小説を読むには知識が足りなさ過ぎだけれど、読めてしまうので不思議だ。
逆に自分でこれといった政治的・経済的信念をもっていないから読めるのかもしれん。

とにかく、ゴルゴ13 は出てくるし、腕やら足やら○ンコに銃を移植しちゃってる おっさん おばさん いるし…

はちゃめちゃながら、タダならぬ雰囲気を持った作品である。

最後に地名 ≪吉里吉里≫ について。

この小説に出てくる ≪吉里吉里村≫ かどうか、ものすごく調べないと定かでないが、岩手県に同名の村がある。

岩手県 上閉伊郡大槌町吉里吉里

十代のころ、親戚のおじさんの故郷に遊びにいった時にこの近くを通った。
確かに道路標識に ≪吉里吉里≫ と書いてあったのを覚えている。
おじさんが、「ほら、ここが 『吉里吉里人』 のとこだよ」と教えてくれたのだが、当時まだこの本を読んでなかった。

「そんな本があるのか読んでみよう」 と強烈に覚えていて、三十代になってやっと読んだ。

それからさらに数年後。
2011年3月11日。東日本を襲った巨大地震による大津波が私のおじさんの故郷山田町にも、吉里吉里にも押し寄せた。
私はこのレビューを書きながら、十代のころに見た風景を思い出している。
そして『吉里吉里人』を読んで感じた東北のたくましさを思っている。

◇情報

1985.日本

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