クージョ
スティーヴン・キング 著
キャッスルロックで一番有名な犬の話
子供好きの忠犬クージョは、体重二百ポンドのセント・バーナードだが、コウモリにひっかかれて狂犬病をうつされた。
理由のない腹立ちに苛まれて、心ならずも飼主を襲う犬。
たまたま訪れたドナとタッド母子は、炎天下、故障した車に閉じこめられた。
人の不和、不安の象徴とも思えるお化けの影の下、狂った巨犬と容赦ない灼熱に悩まされる恐怖を克明に描いて、ひたすらコワい長編。
Category:スティーヴン・キング/映画・ドラマの原作
◇感想と解説
この本は、架空の町 ≪キャッスルロック≫ を舞台にした作品群のひとつであり、他の多くの作品と繋がりを持つため、キング (キャッスルロック) を語る上で避けて通れない作品である。
でも 『クージョ』 は、他のキング作品と異なっている気がする。超常現象は殆どなく、偶然が積み重なって大惨事に至る、という現実的なストーリーになっているせいだだろうか。状況描写にもキング独特のネチっこさがあまり見られなくて、心ここにあらずという雰囲気がある。
ちょっと調べて納得。
このお話を書いたとき、キングはひどいアル中・ヤク中状態でほぼ記憶がないらしいのだ。そういう状況で書いたものが、健康なときの作品より現実的ってどうなってんの。。。
私にとってのキング作品の最大の魅力は、そのストーリーのぶっ飛び具合であるのだが、それと同列くらいに人物描写の細かさも好き。登場人物たちに惜しみなく注がれるキングの愛情。その世界一の愛情をたっぷり受けて、キングの子供たちは作品の中で光り輝く存在となる。
『クージョ』 にはそれが足りない気がする。
おまけに後味も悪い。キングの本の中には後味が悪い本はけっこうたくさんあるけど、『クージョ』 もそのひとつだ。私には同じ本を何度も何度も読み返す習性があるのだが、この本に至っては1回しか読んでいない。私の個人的な好みになってしまうが、またこの世界に戻って行こうとは思えないのだ。
なんかとても辛いんだ。
▼ネタバレを開く
この作品が、キングを語る上でどんだけ重要かと考えると、後の作品にこの犬の名前が出てくる回数を数えればわかる。数える気がなくなるくらい、とにかくたくさんだ。。。クージョは、「狂犬病にかかって飼い主と他何名かを殺した犬」 として、キャッスルロックおよびその周辺の街々に名前をとどろかしている。
さらに、クージョ事件 (事故?) では、ジョージ・バナーマンが命を落とす。
バナーマンは、『スタンド・バイ・ミー』 のころから子供たちを見守り、『デッド・ゾーン』 では、主人公のジョン・スミスに事件の調査の依頼をするキャッスルロックの保安官である。
彼の殉職がキャッスルロックのひとつの時代の終わりを告げ、後任の アラン・パングボーン が出てくる物語、『ダーク・ハーフ』、『ニードフル・シングス』 へと繋がっていく。
◇関連作品
スティーヴン・キング 著
≪キャッスルロック≫ を舞台としたお話。バナーマン保安官が出てくる。『クージョ』 より前のお話。
行方不明だった少年の事故死体が、森の奥にあるとの情報を掴んだ4人の少年たちは、「死体探し」の旅に出た。その苦難と恐怖に満ちた2日間を通して、誰もが経験する少年期の特異な友情、それへの訣別の姿を感動的に描く表題作は、成人して作家になった仲間の一人が書くという形をとった著者の半自伝的な作品である。他に、英国の奇譚クラブの雰囲気をよく写した1編を収録。
スティーヴン・キング 著
≪キャッスルロック≫ を舞台としたお話。『クージョ』 の悲劇が何度か回想される。『クージョ』 より後のお話。
平穏な田舎町キャッスルロックに骨董屋が開店した。店主は素性の知れぬよそ者、でも客はみな目を見張る。欲しくてたまらなかった品々が格安で手に入るのだ。条件はひとつ、店主に頼まれた「いたずら」を実行すれば…。キング作品でおなじみの町に、またも怪異が襲い来る。かつてないスケールと破壊力をそなえた大破局が。
◇情報
1981.USA/Cujo