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アトランティスのこころ

スティーヴン・キング 著

人生のちょっとした不思議と繋がっていく偶然

初めてのキスは乾いていて、なめらかで、日ざしのぬくもりをたたえていた――
1960年の夏、ボビー、キャロル、サリー・ジョンの仲良し3人組は11歳だった。
夏に終わりがこないように、永遠に友情が続くと信じていた彼らの前に、ひとりの老人が現れる。
テッド・ブローティガン。不思議な能力を持つ彼の出現を境に、世界は徐々に変容し始める。張り紙、路上のチョーク、黄色いコートの男たち。少年と少女を、母を、街を、悪意が覆っていき――。
あまりにも不意に、あまりにもあっけなく過ぎ去ってしまう少年の夏を描いた、すべての予兆をはらむ美しき開幕。

◇感想と解説

5編の物語によって形成されるオムニバス。
全く関係ないような各エピソードは、少しずつ繋がっていて、バラバラの物語が集まった短編集のようにも読めるし、これでひとつの作品とも読める。

人間の営みは、それぞれがバラバラに行われているように見えるけど、いろいろな偶然によって関係しあい交差して離れてまた交差して…を繰り返している。5編の物語は全体を通してそういう人生の不思議を教えてくれる。

そしてさらに言えば、これは、ある特別な老人と接触した人たちのその後を追っていった物語でもある。

最初のエピソード 『1960年 黄色いコートの下衆男たち』 は最も長くて、全体の軸となり発端にあたる部分。不思議な老人テッドと少年ボビーの友情を描いた物語だ。

不思議な老人と接触した人々の運命は、まるでビリヤードの玉みたいに跳ね返りながら転がり次の物語へと繋がっていく。

この本のタイトルとなっている 「Hearts in Atlantis」 という言葉がイキイキと浮き上がってくるのは、二番目の物語 『1966年 アトランティスのハーツ』 を読んでからであろう。ベトナム戦争が激しくなってきたころの学生たちの物語。学問と戦争、友情や恋愛、そして様々な苦悩や誘惑にもまれながら成長していく当時の学生たちをナマナマしく描いた文句なしの絶品である。映画にするのならこのエピソードだったんじゃないかな…と思う。。この小さなエピソードは 『スタンド・バイ・ミー』 に並ぶキングを代表する愛と青春の傑作ストーリーだと思う。

次の2編どちらもすばらしくて、単体でも充分成り立つ作品ばかりなのだが、前のエピソードがあるからこその 「哀愁」 がプラスされて全体的に何とも言いようのない雰囲気をかもし出している。とにかく読んでほしいから詳しくは書かない。

そうして最後のエピソードへと私たちはたどり着き、人生の不思議な因果に胸を打たれて涙を流す。
はあ、なんか内容を思い返してるだけで泣けてきちゃう。私は 『アトランティスのこころ』 が大好きなんだ。

『アトランティスのこころ』 は、アンソニー・ホプキンス主演によって映画化されている。
もちろん、この入り組んだエピソード群を全て映像化することは叶わず、最初と最後のエピソードをつなぎ合わせてなんとかひとつの物語に仕立て上げた形になっている。そうすると、タイトルが何のこっちゃとなってしまうわけだが、うまいこと映画オリジナルの解釈を与えてツジツマをあわせている。
ただ、大事なエピソードが語られないので、全てが台無しってゆうか、ただ不思議なだけの全く深みのない物語に仕上がってしまっているのは否めない。
上の方にも書いたけども、何故 『1966年 アトランティスのハーツ』 を映画にしなかったのかな、と悔やまれる。どこか抜き出すならここだと思うんだけど。

まあ、でも、そんなことを言っても、私はこの本が大好きすぎて、残念になってしまった映画も愛している。個々のシーンはとってもステキなんだ。キャストもすばらしいし。ボビー&キャロル&サリーを演じてる子供たちは超かわいいし、アンソニー・ホプキンスの存在感もすばらしい。このおじいちゃんが出てきた瞬間に、おおテッド・ブローティガン!!! と涙してしまったくらいだ。

この映像化された最初のエピソード『1960年 黄色いコートの下衆男たち』は、キングの超大作 『ダーク・タワー』 と深く関係があり、それをわかっていないと腑に落ちないところが多々ある。知らないで読んでも面白いとは思うけども…。不思議な老人テッド・ブローティガンが何者なのか、知っているのと知らないとではずいぶん物語の印象が変わってしまうだろう。

『アトランティスのこころ』 を読んで(映画を観て)真の感動に至るためには、事前に 『ダーク・タワー』 を読み終えていることを私は強くおススメする。

▼ネタバレを開く

『1960年 黄色いコートの下衆男たち』 は、最強のブレイカー テッド・ブローティガンが逃亡中に何をしてたのか、というお話である。ブレイカーとは 『ダーク・タワー』 に出てくる特殊な能力を持った人たちのことで、世界の中心にそびえるという ≪暗黒の塔≫ を支えるビームを破戒する力を持っている。
テッド・ブローティガンは、『ダーク・タワー』 における主人公たちの旅の終盤に登場し、物語に大きな影響を及ぼし重要な役割を担う人なのだ。

◇関連作品

ダーク・タワー

スティーヴン・キング 著

最初のエピソード 『1960年 黄色いコートの下衆男たち』 は 『ダーク・タワー』 と深く関係している。

なにもかもが奇妙に歪んだ地、この世ならぬ異境で“黒衣の男”を追い続ける孤高の男がいた。最後の“ガンスリンガー”、拳銃使いのローランド。彼はひとりの少年と出会い、ともに旅を続けるが―。“黒衣の男”とは何者なのか?ローランドの過去とは?そして、“暗黒の塔”とは…?幾多の謎を秘めた壮大な探求の旅、ダーク・ファンタジーの金字塔が、いま開幕する。

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蠅の王

ウィリアム・ゴールディング 著

老人テッドが少年ボビーに薦める本のひとつ。

未来における大戦のさなか、イギリスから疎開する少年たちの乗っていた飛行機が攻撃をうけ、南太平洋の孤島に不時着した。大人のいない世界で、彼らは隊長を選び、平和な秩序だった生活を送るが、しだいに、心に巣食う獣性にめざめ、激しい内部対立から殺伐で陰惨な闘争へと駆りたてられてゆく……。少年漂流物語の形式をとりながら、人間のあり方を鋭く追究した問題作。

ハツカネズミと人間

ジョン・スタインベック 著

老人テッドが少年ボビーに薦める本のひとつ。

一軒の小さな家と農場を持ち、土地のくれるいちばんいいものを食い、ウサギを飼って静かに暮らす―からだも知恵も対照的なのっぽのレニーとちびのジョージ。渡り鳥のような二人の労働者の、ささやかな夢。カリフォルニアの農場を転々として働く男たちの友情、たくましい生命力、そして苛酷な現実と悲劇を、温かいヒューマニズムの眼差しで描いたスタインベックの永遠の名作。

動物農場

ジョージ・オーウェル 著

老人テッドが少年ボビーに薦める本のひとつ。

飲んだくれの農場主を追い出して理想の共和国を築いた動物たちだが、豚の独裁者に篭絡され、やがては恐怖政治に取り込まれていく。自らもスペイン内戦に参加し、ファシズムと共産主義にヨーロッパが席巻されるさまを身近に見聞した経験をもとに、全体主義を生み出す人間の病理を鋭く描き出した寓話小説の傑作。

タイムマシン

H・G・ウェルズ 著

老人テッドが少年ボビーに薦める本のひとつ。

80万年後の世界からもどってきた時間旅行家が見た人類の未来はいかなるものであったか。衰退した未来社会を描きだした「タイム・マシン」は、進歩の果てにやってくる人類の破滅と地球の終焉をテーマとしたSF不朽の古典である。

未知空間の恐怖 光る眼

ウルフ・リラ 監督

老人テッドと少年ボビーが観に行く映画。

驚異的能力を持つ不気味な子供たちの恐怖を描いた、クラシックSFホラー。

ブラック・ハウス

スティーヴン・キング 著

『ブラック・ハウス』の中で、『アトランティスのこころ』 の登場人物についてちょろっと言及がある。

LA市警の敏腕刑事ジャックは、辞職してウィスコンシン州の田舎町に移り住もうとしていた。折しも町では、食人鬼フィッシャーマンによる少年少女誘拐事件が続発。事件の背後にある不可思議な現象を探るうちに、ジャックは、20年前に母親の命を救うために旅立った異界からの呼び声を聞くことに―。稀代の語り部コンビが『タリスマン』に次いで贈る畢生のダーク・ファンタジー。

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◇情報

1999.USA/Hearts in Atlantis

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複数の作品形態がある場合は、存在するものから ハードカバー/文庫/Kindle/DVD/Blu-ray/4K/Prime Video(字幕/吹替) の順番でリンクします。

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