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ザ・スタンド

スティーヴン・キング 著

静かに世界は死滅してゆく。
人類が見た共通の夢とは?

世界は終末のときを迎えていた。
致死率99%という超悪性のインフルエンザ、スーパーフルーの流行によりほとんどの人が死に絶えてしまったのだ。
しかし、妊娠中の少女に聾唖の青年、売れない歌手……生き残った者もいるにはいた。
生者を求めて旅をつづけるそんな人々がうなされる毎夜の夢、それはネブラスカのトウモロコシ畑でギターを弾く黒人の老女の夢だった。
夢の不思議な力に導かれ、老女のもとをめざす人々に忍び寄る黒い影。
実は闇の男もこの絶好の機会に世界を征服せんと狙っていたのであった。
ついに正体を現わした「光」と「闇」、「善」と「悪」の戦いの行方は……?
キングの最高傑作と評する人も少なくない、キング文学の金字塔というべきファン待望の作品がついに日本語版で登場、20世紀の最後を飾るにふさわしい、あらゆるジャンルを包括した超大作。

◇感想と解説

まずは出版にまつわる話をしたいと思う。

『ザ・スタンド』 が出版されたのは 1978年。キングの4作目。日本語の文庫にしても 5冊に及ぶこの物語は、新人作家の新作長編としてはあまりに長かった。だから、当初、キングは泣く泣く15万語ほどを削除しこの大作を世に送り出した。

それから約10年後の1990年、キングは削除された文章を復活させ、時代設定も90年代になおして、〈完全版〉を発表した。今日、日本でも読まれているのもこの完全版である。

その日本語版が出るまでが…また長かった…。

本書は日本ではなかなか翻訳がされず、長らく幻の長編だった。
そうして待ち望まれる中、日本語版の 『ザ・スタンド』 が本屋に並んだのは2000年。上巻が 2000年の11月、下巻が同年の12月に続けて発売された。ぎりぎり、20世紀内に滑り込んだ感じ。

最初の出版から20年以上、〈完全版〉 からも10年である。。。。かかったなぁ。。。

ってゆうエピソードよりも、私が一番驚いたのは実はその本のサイズ!!
この大大長編を、2冊のどデカいハードカバーで出版。。。

アホか! (^^;)

こんな電話帳より分厚い本、持ち歩けないし!!! 買えないし!!! ああ、でもこれは20年も待たされた幻の長編。こんな形でも売れるんだね。

私は上巻が出版されたころ、記念に拝みに行ってみた。それは、見ただけでもわくわくするような素晴らしい表紙だった。トウモロコシ畑の中でギターを弾く マザー・アバゲイル。そのときは彼女の役割りも名前も知らなかったが、眩しく光っていたのを覚えている。だけど、当時の私にはとてもじゃないが購入できる代物ではなかった。いつかきっと、この本は文庫になるだろうと念じて帰ったのだった。

そして待つことさらに4年。

本屋に 『ザ・スタンド』 の文庫本が並んでいるのを目撃する。
忘れもしないあの瞬間。

「え? え? これ、ホントにあの ザ・スタンド?」

私にも幻の長編が読める時が来たのだ!!! ああああ! ついに読める! !
そのとき、最初の出版からすでに 26年の歳月が流れていた。。。

さて、話を本の内容に移そう。

アブストにもある通り、この物語は、超強力ウイルス(通称 キャプテントリップス)が瞬く間にアメリカ全土を汚染して、人口の99%が死んでしまうところから始まる。

なんだけど、他のキングの作品と同じように、最初の題材の先入観で物語のジャンルを早とちりするとズッコケるので要注意。軍のウイルスが… とか言ったら普通サスペンスかSFかと思いたいところだが…

いえいえ、これは、微妙にコミカルで、ものすごく良質な…

ファンタジーなのである!!!

ウイルスはまあ、むしろ、あまり問題ではなく…。
この物語は、ある男のために書かれたと言っても過言ではない。

誰かって?

それは、キング作品を多く読めば読むほど気になってくるあの人。

ランドル・フラッグ
ウォーキン デュード (歩く男)

またの名を

黒衣の男

この人物は、キングの最大作品 『ダーク・タワー』 を中心に、名を変え姿を変えいろいろな作品に出てくる。まさにキングの広大なハイパーリンク世界の象徴ともいうべきキャラクターなのである。
フラッグが他で活躍する作品としては、『ドラゴンの眼』 『ブラック・ハウス』などもあるが、『ザ・スタンド』 におけるフラッグが一番生き生きと描かれているように思える。つまらないブラックジョークも連発しちゃったりとかして、超ゴキゲンなのだ。
フラッグ って何となくキモイ奴なのだが、『ザ・スタンド』 を読むと可愛らしい面もあったりしてちょっと好きなる。油断してると、読み終えるころにはファンになっていたりもする。

このようなことから、なんとなく 『ザ・スタンド』 は 『ダーク・タワー』 外伝という位置付けができると私は勝手に解釈している。

ちなみに、ランドル・フラッグ はヨーロッパ最大の伝説 『アーサー王物語』 に出てくる魔術師マーリン・アンブロジウスがモデルとなっているそうだ。西洋において、魔術師といえばマーリン、マーリンといえば魔術師。これは子供でも知ってるくらいの常識らしい。

『ザ・スタンド』 はキングの最高傑作と謳われることもしばしば。アメリカではとっても人気が高い。確かに、素晴らしい作品だ。傑作にはちがいない。

でも、なんというか、気持ち的にちょっと入りにくいのだ。
あくまでも個人的な感想なんだけど。
登場人物の書き込みがすこし物足りないというか。

『ザ・スタンド』 には、主人公級の人物だけで10人以上登場し、それぞれの物語が バラバラ にスタートして、やがて集まって一つの大きな流れに呑まれていく。
ウイルスによって崩壊した大国の様子が、異なった目、異なった価値観によって次々と語られ、それぞれの人生の中に出来事が刻まれていく。
最初の方は バラバラ の視点とストーリーが、徐々に徐々に集まって、少しずつ全貌が見えてくる様子が見事で、すんごく面白い。

みんながトウモロコシ畑の夢を見る、なんてロマンチックでしょう?

だけれども、物語の流れが巨大になっていくにつれて、だんだん全員に気を配ってられなくなっている印象がある。それぞれの個性が薄くなって大衆に紛れていく。むしろ、それを狙っているのかもしれなくて、個々→大衆 という主観の移動と捉えることもできるが、なんだか寂しい感じ。これだと<猛烈な思い入れ>が生まれにくい。そうなると、この先、この人どうなるんだろう…という病的な好奇心もちょっと失われる。

それから、まじめにこの物語と向き合えば向き合うほど、結末に納得がいかなくなる仕掛けが。
バカにしてのか~っ!!! って。
ここでは詳しく言えないけど、何なんだあの結末w

これでがっかりしてしまう読者も多いみたいだけど、私は逆にこれが好きだ。このどーしょもない結末があるからこそ、『ザ・スタンド』 は駄作ではなくて傑作と思うし、実にキング的だわと思う。

うーん、でもやっぱり「ぶっとび」が少々足りない気もち。

だがしかし!! 物語の中でひときわ輝いている人物がいる。

ゴミ箱男
トラッシュキャン・マン だ。

『ザ・スタンド』 は、フラッグの物語でもあり、トラッシュの物語でもある。
トラッシュは、世界中の大都会に必ず存在するような、いわゆるホームレスだ。
ビルの狭間で真っ黒に汚れて、ぼろぼろの服を着、ギョロギョロした眼で世界を見ている男。
想像したことがあるだろうか。こういう人たちの人生。

ゴミ箱男の人生……子供の頃の強烈な思い出……混沌とした記憶……ギョロ目の奥に隠れた喜怒哀楽。

『ザ・スタンド』 はトラッシュの物語なのだ!!!!

あああ!!!! トラッシュよ!!!! 永遠なれ!!!!!


なお、『ザ・スタンド』はファンの間では一番映像化してほしくない作品と言われていたそうだ。
その要望に反して1994年にテレビのミニシリーズとしてドラマが作成された。

その内容はファンが予想したとおり、ひでーもんで…。
こんなに面白い物語を、こんなにつまらなく作れるのがある意味すごい。。。
この超大作を6時間にまとめるという涙ぐましい努力は見られるものの、全体的に漂うチープさと展開の唐突さは否めない。

残念っ!!!!

▼ネタバレを開く

私が『ザ・スタンド』を読んで、大興奮!!!!とまで言えなかったわけにはいろいろあるんだけど、善と悪があまりにわかりやすく描かれていることも挙げられるだろう。ちょっと安易に見えちゃうってゆうか…。

どんでん返しがない。見えたとおりというか。<善=白> である マザー・アバゲイル の浅黒い肌と、<悪=黒> へ転げ落ちたナディーンの白髪が不思議な対比となっているのが面白いけど、でもなんかな…。

つまりその、わかりやすいっていうか、ありきたりってゆうか、ブッ飛んでないの。
そんな単純な話じゃないよね??何か裏があるの??…と悩んでしまうのだ。

で、私が到達した結論は、キングは単純におふざけしてるフラッグを書きたかっただけなんじゃ…という。。まあそれならいいや…って感じ(^^;)
『ダーク・タワー』のフラッグの最後はちょっとかわいそうだものね。

◇関連作品

ダーク・タワー

スティーヴン・キング 著

『ザ・スタンド』 は 『ダーク・タワー』 シリーズあってこその作品。どちらも読まないと、キング作品の全てを把握することは難しい。

なにもかもが奇妙に歪んだ地、この世ならぬ異境で“黒衣の男”を追い続ける孤高の男がいた。最後の“ガンスリンガー”、拳銃使いのローランド。彼はひとりの少年と出会い、ともに旅を続けるが―。“黒衣の男”とは何者なのか?ローランドの過去とは?そして、“暗黒の塔”とは…?幾多の謎を秘めた壮大な探求の旅、ダーク・ファンタジーの金字塔が、いま開幕する。

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ドラゴンの眼

スティーヴン・キング 著

キングが自分の子供ために書いたおとぎ話的ファンタジー。フラッグが活躍する。

ドラゴンの心を持つ勇敢な王子・ピーター。魔法の水晶を持つ邪悪な魔術師・フラッグ。闇の中に隠された事実。正義と勇気をかけた闘いが、今始まる! スティーヴン・キングが愛娘に贈った冒険ファンタジー。

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ブラック・ハウス

スティーヴン・キング 著

『タリスマン』 の続編であるが、本書は 『ダーク・タワー』 色が濃い。フラッグがよそでどんな仕事をしているか知ることができる。

LA市警の敏腕刑事ジャックは、辞職してウィスコンシン州の田舎町に移り住もうとしていた。折しも町では、食人鬼フィッシャーマンによる少年少女誘拐事件が続発。事件の背後にある不可思議な現象を探るうちに、ジャックは、20年前に母親の命を救うために旅立った異界からの呼び声を聞くことに―。稀代の語り部コンビが『タリスマン』に次いで贈る畢生のダーク・ファンタジー。

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ナイトシフト『波が砕ける夜の海辺で』

スティーヴン・キング 著

本短編集収録の 『波が砕ける夜の海辺で』 は 『ザ・スタンド』 の外伝。

16年前に兄を殺した不良少年たちが、当時の姿で転校してきた!高校教師を脅かす悪夢『やつらはときどき帰ってくる』、腐ったビールを飲んで、怪物と化してしまった父親を描く『灰色のかたまり』、血の味にめざめたクリーニング工場の機械がおこす血なまぐさい惨劇『人間圧搾機』、宇宙飛行士の手の中に寄生した異星生物と、その不気味な行動『やつらの出入口』、暗い汚水溜の中、信じられない出来事が連続して起きる『地下室の悪夢』、ラヴクラフトの暗黒世界に挑んだ『呪れた村〈ジェルサレムズ・ロット〉』など、鬼才キングが若さと才能のすべてをぶつけた傑作短編集『ナイトシフト』ここに登場。

指輪物語

J・R・R・トールキン 著

『ザ・スタンド』 はキング版 『指輪物語』 と度々称される。『ザ・スタンド』 の中には、『指輪物語』 からの引用も見られる。

恐ろしい闇の力を秘める黄金の指輪をめぐり、小さいホビット族や魔法使い、妖精族たちの、果てしない冒険と遍歴が始まる。数々の出会いと別れ、愛と裏切り、哀切な死。全てを呑み込み、空前の指輪大戦争へ―。

◇情報

1978.USA/The Stand
1990.USA/The Stand, The Complete and Uncut Edition

◇Amazonで購入する

複数の作品形態がある場合は、存在するものから ハードカバー/文庫/Kindle/DVD/Blu-ray/4K/Prime Video(字幕/吹替) の順番でリンクします。

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