トミーノッカーズ
スティーヴン・キング 著
むやみやたらに掘り返してはいけない
せんじつめれば全て偶然のいたずら、あるいは運命でしかない―あの日メイン州ヘイヴンの森で、ボビ・アンダーソンが何物かにつまずいたことも、好奇心から地面を掘り返しはじめたことも。(ボビが大変なことになっている!)虫の知らせを感じ、訪ねてきたかつての恋人ジム・ガードナーは、驚くべき光景を目の当たりにするが…。
Category:スティーヴン・キング
◇感想と解説
「トミーノッカーズ」とはイギリスに伝わる童話らしい。「トミー」とはイギリス兵のことを指す。
Late last night and the night before, tommyknockers, tommyknockers
knocking on my door. I wanna go out, don’t know if I can
‘cuz I’m so afraid of the tommyknocker man.
ゆうべ遅く、その前の晩も、トミーノッカーズ、トミーノッカーズ
ドアをドンドン叩いてる、出て行きたいけど行かれない
トミーノッカーが怖いから
死んだ兵隊が戻ってくる系。
だがしかし、『トミーノッカーズ』 はゾンビが帰ってくる系のお話ではなくてSFなところが面白い。読めば納得、確かに 「トミーノッカーズ」 なんだ。
2011年3月11日を経て読むとまた異なった意味をこの物語の中に見出せるだろう。
なぜならば、これはキングの「チェリノブイリ」だからだ。
この物語はチェルノブイリ原発事故の翌年に発表され、事故の影響を色濃く受けている。
人知を超えた得体の知れないものによって変わり果ててしまう人々。人が人ではなくなっていく。そして逃げたくても逃げられないブラックホールのような悪夢。
当人たちは新しい能力と体に満足している様子だけど、彼らが手に入れたものの代償は大きい。なにか触れてはいけない領域のような。ナチュラルではない異様な技術。これは原子力そのものではないだろうか。
キングは原子力に手を染めた人類の悲劇を描きながら、それと同時に信仰・洗脳・依存のせいで引き裂かれるハメになった家族や恋人のことも描いていると思われる。愛する人がよくないものに没頭してしまったらどうしたらいい?よくない宗教とかよくない商売とかよくない活動とか。
「よくない」 っていうのは何基準なのかでグラグラ変わるものだけど、でも、自分がよくないと思っていることに愛する人が夢中になってしまったらどうする?必死で止めるか、それともなんとか理解して手助けしようとするか。親愛なる人のことを全て否定するのは難しい。
この物語に登場するダメダメヒーロー ジム・ガードナーはアル中で使い物にならない男だけど物語の中ではまともに見える。彼自体が周りから心配されるタイプなんだけど、でも、それ以上に彼の大切な友達ボビたちが夢中になってるものはもっとヤバイものなんだ。
『トミーノッカーズ』 はこのようなヘビーな題材であるのだが…さすがキング。どこかすっとぼけている。すっとぼけずにはおれないのか。特に、進化した町の人々が発明するのもがなんとも(^^;)。
≪アルタイル4≫ なんつうスタートレックみたいな場所も出てくるし。これをこのまま映像化したらとんでもないB級になりそうな…と思ったら映画化されているようだね。。どんな仕上がりなのかぜひ見てみたい。。
なお、この物語の舞台となっている ≪ヘイブン≫ は、キングの創造した架空の町で、≪キャッスルロック≫ や ≪デリー≫ とも近所である。
<おまけ>
ファンタジーやSFをテーマにした曲を多数作っているドイツのメタルバンド BLIND GUARDIAN(ブラインド・ガーディアン) がこの物語を元に
[ Tommyknockers ] [ Altair 4 ] という曲を作っている。
◇関連作品
スティーヴン・キング 他
レベッカ・ポールソンは 『トミーノッカーズ』 の登場人物。
恐怖とエロスは隣りあわせ、人間の一番深いところから生まれる感情だ。そこに着眼した編者もさすがだが、執筆者の顔ぶれがスゴイ。キング、レンデル、バーカーといった大物、トーマス・M・ディッシュらの中堅実力派、P・マグラア、C・ファウラーら大型新人、それに日本で未紹介の注目作家たちがズラリと並び、涎の出るような傑作集。
◇情報
1987.USA/Tommyknockers