IT
スティーヴン・キング 著
殺人ピエロ参上。下水道から宇宙へ。
少年の日に体験したあの恐怖の正体は何だったのか? 二十七年後、薄れた記憶の彼方に引き寄せられるように故郷の町に戻り、IT(それ)と対決せんとする七人を待ち受けるものは?
Category:スティーヴン・キング/Kindleで読める/映画・ドラマの原作
◇感想と解説
スティーヴン・キングの代表作にして、モダンホラーの金字塔。文庫で4冊分ある超長編物語。
私が初めて読んだキング作品は、この 『IT』 である。だから、個人的な話ではあるが、この作品にはとてつもなく深い思い入れがある。10代の時に初めて読んで、20代で2回読み返し、30代になってまた1回読んだ。これからも、何回でも読める自信がある。それくらい複雑な話であり、面白い話なのである。
『IT』 は 1958年 と 1984年 という2つの時代を主軸にして、時系列がバラバラに語られる。総勢7人の主人公たちは 12歳 と 38歳 で登場する。
私が最初に 『IT』 を読んだ時は、子供時代の主人公たちに歳が近くて、今は大人になった彼らに近い。まさにこの小説と共に育って来たと行っても過言ではない。
<IT> という代物は、何かトラウマ的な、潜在意識に訴えかけてくる恐怖である。
これはもう、キングの <恐怖とは何か> という哲学。
物語のあちこちに散りばめられた恐怖のキーワード。
ピエロ。
荒れ地。
下水道。
血。
家族の死。
記憶の欠落。
こえーのなんのって!!!!
最初に読んだころ、心も体も若かった私は、これらの派手なキーワードに惑わされて、この物語のとんでもなく壮大な世界観に気が付いていなかった。それはあまりに巨大すぎたのだ。
そして月日は流れ、私は何冊ものキング作品と触れた。その中には 『IT』 にとっても重要な意味を持つ 『ダーク・タワー』 という本も含まれていた。『ダーク・タワー』 を読むと見えてくる、『IT』 の向こう側にある広大な世界。そして、襲ってくる再読熱。
『ダーク・タワー』 に限らず、キングの他の作品を読むとなぜだか 『IT』 に戻りたくなる。
そして、そのたびに新しい扉が開く。
再読者だからこそ気がつけることや、キングの他の作品を読んでいないとピンと来ない言葉の数々。読めば読むほど、『IT』 にはそういう仕掛けがたくさんあることを知った。それは、キングから 「お帰り」 を言われているような気分。「よく戻って来たね、いや、来るのはわかっていたよ」 という挨拶。ジェットコースターに乗るように何度も何度もこれを体験したくなる。走り出したら止まらない、まるで狂気に駆られたモノレールのように。
過去も未来も全てがごちゃまぜになって怒濤の結末へ押し流されていく。
愛する 7人の主人公と彼らを取り巻く人々 + α と一緒に。
下水道の中を。
◇映像としての『IT』
2020年現在、『IT』は2度映像化されている。
最初の『IT』はテレビのミニシリーズだった。
これがカルト的なファンを持つ、B級ホラーな仕上がりで、この物語の真の壮大さを全く描き切れていないけれど、妙な魅力がある不思議な作品である。
ピエロのペニーワイズたんがカワイイのだ。
そして世界的大ヒットとなった2017年と2019年公開の『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』と『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』
ペニーワイズたん死ぬほど怖い。
▼ネタバレを開く
『IT』 は、ベン・ハンスコムの初恋の物語でもある。
作中で少年時代のベンはひと目ぼれをしたベヴァリー・マーシュに俳句を送る。
それがとってもすばらしい句なのでここに紹介したい。
Your hair is winter fire.
January embers.
My heart burns there, too.
君の髪は冬の炎。
1月の残火。
僕の心もそこで燃えている。
ベンが恋するベヴァリーはキングのライフワーク的作品 『ダーク・タワー』 のスザンナを別格とすれば、キング作品中でピカイチの女性である。これは私の勝手な好みかもしれないけど…。
父親と夫に虐待され、人生の大半を暴力に屈してきたにも関わらず、彼女は健全で強くて美しい。
そのベヴァリーは、はみだしクラブのリーダー ビル・デンブロウに恋をしている。
ビル・デンブロウは後にホラー作家となるが、キングの他の作品でも時々 「ビル・デンブロウというホラー作家」 というように名前が出てくることがある。
そして、肝心の <IT> …。
<IT> は宇宙からやってきた巨大なメスグモなのだけど、こいつの姿はJ・R・R・トールキン の 『指輪物語』 に出てくるシェロブを彷彿とさせる。シェロブは巨大なメスグモで、巣のトンネルを通る者をとらえて食べる。
『ダーク・タワー』 には <IT> と酷似したピエロが出てくるが、こちらの彼(彼女?)はクモではなくて、別の者がクモになる。
『ローズ・マダー』にもクモが出てくるね。
キングはクモが死ぬほど嫌いらしいけど。
<IT> は人の心の奥底にある恐怖を探り当て、その姿となって襲いかかり、食べる。ターゲットは子供で、子供たちの恐れる姿となってやってくるのだ。
<IT> の巣で主人公たちはたくさんの卵を発見するが、それはなんだか 『エイリアン』 のシーンを思い出させる。エイリアンのお母さんが卵いっぱい産んでるシーンがあったよね。エサである人間がそれを見て、ひーー殺せ殺せってなるあたりが似ている。
そして、『IT』 を読んで、最大の謎となる <亀>。<IT> の宿敵と思われるか何なのかよくわからないまま物語は終わってしまう。この唐突に出てくる <亀> について、『IT』 の中では一切説明がないが、こいつは 『ダーク・タワー』 に出てくる守護者のひとつだなのだ。
『ダーク・タワー』 の世界では、全ての世界の中心に ≪暗黒の塔≫ がそびえていて、それを支える <ビーム> を12の守護者が守っているとされる。
<亀> はマチューリンという名で、その中でも最高位の守護者なのだ。『IT』 の中で、大人になった主人公たちが亀が死んでいることを発見するが、どういうことだろうか。
◇関連作品
スティーヴン・キング 著
『IT』 と同じ町 ≪デリー≫ が舞台のお話。ちょっとつながりがあったりもする。
“クソは変わらず日付が変わる”をモットーに、メイン州の町デリーで育った、ジョーンジー、ヘンリー、ビーヴァー、ピートの4人組。成人した今、それぞれの人生に問題を抱えながらも、毎年晩秋になると山間での鹿撃ちを楽しんでいた。だが、奇妙な遭難者の出現をきっかけに、いやおうもなく人類生殺の鍵を握る羽目に―。
ノルウェーの昔話/ マーシャ・ブラウン 絵/瀬田 貞二 訳
『IT』 のアイディアの元である絵本。
大きさの違う3匹のやぎがいた。名前はみんな「がらがらどん」。ある日、3匹は草を食べて「ふとろうと」(太ろうと)、山へ向う。だが、途中で渡る橋の下には、気味の悪い大きな妖精「トロル」が住んでいて…。北欧の民話をベースにした物語。
◇情報
1986.USA/It
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